私は西暦2000年にテレビを捨てたので、それ以降の日本での流行については基本的に疎い。が、近頃はTwitterでそれなりの人数をフォローしているのとYouTubeがTVに取って代わりつつあることもあって、あたらしい日本語に気づく機会が増えてきた。
自分で使うかどうかはさておき、言語学的には興味深いことなので、このページでは新しく遭遇した日本語表現をまとめていきたい。
「わかりみ」のルーツは漱石?
ちかごろの若者がよく使う言葉に「わかりみ」という言葉、「わかりみが深い」とか「わかりみしかない」というような使われ方をしているようだ。迂闊に真似をすると「申し訳なさみが深い」みたいな誤った使い方をしそうなので、個人的には手を出さないことにしている。
健三が遠い所から帰って来て駒込の奥に所帯を持ったのは東京を出てから何年目になるだろう。彼は故郷の土を踏む珍らしさのうちに一種の淋し味さえ感じた。
この「わかりみ」の「み」は漢字で表すと「味」であり、そのルーツは夏目漱石の『道草』の冒頭部分であるという主張がある。そう言われると急に味わい深い表現のように思えてくるから不思議だ。
「わかりみ」という使われ方が主流のようだが、下で紹介する「エモい」と組み合わせて「この写真はエモみが出てる」のような使い方をする人もあらわれているようだ。将来的には「申し訳なさみが深い」が使われる日が来る可能性もある(ないか)。
「よき」の語源はサンスクリット語?
「よき」という言葉づかいもちかごろ頻繁に目にするようになった。「よきです」とか「マジよき」とか「よきよき」などと使われている。
私は最初に見た刹那に「善き哉(よきかな)」という仏教用語を思いだした。むかし信長の野望(戦国群雄伝または武将風雲録あたりだったと思う)をプレーしていたとき、快川紹喜などの高名な禅僧があらわれて「善き哉、善き哉」と「よきかな」を2回繰り返して去っていくイベントがあった。最近の若者言葉でも「よきよき」と二回繰り返すようなので、ある面、伝統の復古と言える。
仏教用語としての「善き哉」は師匠が弟子を褒めるときに使うサンスクリット語のSādhu (साधु)が語源なので、最近の若者はまさに「さとり世代」なのかもしれない。
ちなみに「善き哉」は食べ物の善哉(ぜんざい)の語源にもなったそうです。 お餅の入った小豆汁を馳走になった一休宗純禅師が、 「善哉此汁(よきかな この汁)」 と言ったことがきっかけとのこと。
なお、「斧琴菊(よきこときく)」が語源であるという説も一部にはあるようだ。これは判じ物として有名な和柄の一つで、「良き事聞く」という吉祥の意味を込めたもの。横溝正史の「犬神家の一族」で有名になりました。
「エモい」は古文でいうところの「をかし」and/or「あはれ」
「エモい」はもともとは音楽クラスタの間で「Emoと呼ばれるジャンルの音楽っぽい」というような意味で使われていました。Emoというのは00年代初頭にアメリカを中心に流行したロックの一形態で、感情表現が大げさなハード系のロックです。「あのバンド、エモいよねー」みたいな使われ方だったと思います。
が、いつの間にEmoを知らない人達のあいだにも広まって、本来の使い方とは違う使われ方をするようになった。どうもそのきっかけになったのが落合陽一氏のようで、彼が現在の使われ方である『エモいとは、ロジカルの対極にある、一見ムダなもの。「もののあはれ」や「いとをかし」』という定義で多用するようになってから広まったようです。
基本的には上記のツイートのように「をかし」and/or「あはれ」のような表現ですが、適用範囲も年々広がっているようなので、この調子でいくと「かわいい」や「やばい」のように、ポジティブなシーンだったらなんでもいいからとりあえず使っとけ、みたいな言葉になる可能性もあります。
写真でもインスタなどではこの「エモい」系の写真が主流のようで、フィルムカメラの復古やフィルム風現像などもその流れの一端のようです。廃墟萌えとかもある種のエモい趣味なんでしょうね。
もとの英語のemotionalに囚われすぎないほうが良さそうです。
なぜか繰り返す「ほぼほぼ」
繰り返す意味はとくにないようで「ほぼ」と同じ意味で使用されています。「ほぼほぼ」と繰り返すときは確度がましているという説もあり、また断言を避けたい意図が強く働いたときに繰り返す、とう説もあるようです。
私が観察している限りにおいては「ほぼほぼ」を使う人はつねに「ほぼほぼ」と二回繰り返し、「ほぼ」を使う人はつねに「ほぼ」を使っているので、そのように使い分けている人は少ないと思います。「まぁまぁ」とかと同じで、たんに語感的な伝染力が強いだけではないかと思っています。
私はYouTubeで気づいて、その後ひさしぶりに会った30代の人たちがたちが「ほぼほぼ」を使っているのに気づきました。
マウンティング
日本語のコンテンツをYouTubeで観るようになって気がついた言葉です。「マウントを取る」というような使い方もしているようです。
英語のmountは動詞の場合、「登る」とか「取り付ける」とか「(インテル入ってる的な意味で)マウントする」みたいな意味がまっさきに浮かぶのですが、「(相手に)馬乗りになる」という意味もあります。そういえば昔プロレスの実況で古舘伊知郎あたりが「マウントを取った〜!」みたいなことを言っていたような気がする。
上記の定義が転じて「優位性を誇示する」みたいな感じで使われているようです。ちょっと上から目線で何かを言うと、「マウンティング」と言われちゃうみたいですね。「俺が若い頃は〜」とか語りだすと「マウンティング」→「パワハラ」→「老害」とレッテルを貼られかねない状況なので、中高年は注意しましょう。注意していてもついつい言っちゃうと思いますけどね。
上記の『エモい』にしてもそうですが、英語ができる人ほどむしろピンとこない使い方だと思います。
陰キャ
陰気なキャラクターつまり根暗という意味。これはけっこう前から聞きます。「陰キャの自覚がある」というように使うそうです。
対義語は陽キャ。
オール
all nightの略で一晩中遊ぶことを指すそうです。「30になるとオールがきつい」みたいな使い方のようですね。
最初に聞いたときは船をこぐオール(櫂)かと思いました。「オールがきつくて船をこぐ」とか言われると更に混同しそうな気がします。が、今の若い人は座ったまま寝ることを「船を漕ぐ」なんて言葉では表さないのかもしれません。
レペゼン
英語のrepresentの略で〜を代表するという意味です。representは「レプリゼント」って感じの発音ですが、ネイティブが早口で言うと「レペゼン」に聞こえることから、主にラッパーの間で使用されるようになった言葉のようです。しかしカタカナ発音で「レペゼン」と言ってもおそらく通じないでしょう。「レプリゼント」と発音したほうが通じる可能性は高いと思います。
「レペゼン地球」というDJ社長が率いるYouTuberのグループがありますが、地球を代表するって意味のようです。