Photo taken with SIGMA DP2 QUATTRO
「富士には月見草がよく似合う」という太宰治の言葉は有名になってひとり歩きしてしまった感がある。「富嶽百景」をちゃんと読んだ方はわかると思うが、富士山を背景に咲いている月見草を見た太宰が、あぁ、やっぱり富士には月見草がよく似合うなぁ、と感嘆して云った言葉ではない。実際の話はこうだ。富士吉田から御坂峠に戻るバスに乗った太宰は他の乗客たちが夢中になって富士山を見て大喜びしているシーンに出くわす。しかし、その中で老婆が一人だけ富士山とは逆側を暗い顔をしながらじっと眺めていた。俺は富士山のような俗な山に感動している大衆とは違うぞ、と太宰はすっかり老婆に共感して、同じように富士山とは逆側の窓を眺めていたら月見草が咲いているのが見えた。それで「富士には月見草がよく似合う」と云ったのである。つまり月見草と富士山を同時に見ていない。
御坂峠の天下茶屋に数ヶ月も逗留して「富嶽百景」などという小説を書いていることからも分かる通り、太宰は相当の富士山好きだったようだ。しかし、デカダンな作風を旨とする気鋭の小説家が、大衆に大人気で王道の極致とも言える存在である富士山が好きだと公言するのは憚られるので、この作品の中で太宰は富士山を貶し続ける。「好きの反対は嫌いではなく無関心」とはマザーテレサの有名な言葉だが、まさに太宰の富士山への歪んだ愛にピッタリと当てはまりそうだ。作品の中で太宰は富士山を貶し続けるが、どこか愛があって憎めない。
そんな太宰に敬意を表して、月見草を富士山と撮ってみた。まだ咲いていない月見草にピンを当てて富士山をぼかしてみたが、今にして思うとまだ太宰度が足りないかもしれない。虫が止まった枯れかかった月見草を選んで、水平をもっと大胆に無視して、ピンを少し外して、わざと手ブレさせて、無意味な余白を入れるぐらいしたほうが良かったかもしれない。いやいや、別に太宰をDISってるわけではないですよ。太宰風に太宰への愛を書いてみました(笑)
でもカメラはとても太宰的だと思う。キヤノンやニコンなんて大衆が使うカメラは使ってられん! という人にSIGMA DP2 Quattroはお勧めです( ̄▽ ̄)
Nikon D800E w/ SIGMA ART 24-105mm F4 DG OS HSM
写真はすべて忍野村で撮影。太宰は河口湖町で月見草を見たと思うので、河口湖のあたりからも一度撮ってみたい。
※WordPressをサブディレクトリ型で多言語化する作業に伴い、2019年12月26日に日本語部分だけを切り離して投稿。