赤石岳に登って、ニホンカモシカに遭遇した!

YUGA KURITA Japanese Serow_9E40668Nikon D800E w/ SIGMA ART 24-105mm f/4 DG OS HSM

ニホンカモシカは言うまでもなく特別天然記念物である。僕は今まで、一度も野生のカモシカを見る機会がなかった。富士山の麓に住んで、富士山撮影三昧の生活を送っているので、鹿はよく見る。しかし、カモシカは一度も見たことがなかった。この写真は南アルプスの主峰である赤石岳から降りてきて、車で家に帰る途中で撮ったものだ。

赤石岳へは通常、椹島(さわらじま)という場所から登る。しかし、この椹島は一般車の通行が禁止されている東俣林道を通らないとたどり着かない。一般人が椹島まで車で行くには、東海フォレストの経営するロッジに泊まって、その送迎バスに乗せてもらうしかない。しかし、赤石岳の登山道にある東海フォレスト経営の赤石小屋はすでに閉まっているので、意味もなく椹島に一泊しないとバスに乗れない、という厳しい状況だ。一般車両の通行を規制するなら、すべての登山者に開放されたバスを用意すべきだと思う。結果として、僕は畑薙ダムの横のゲートに駐車して、登山道入り口まで18km(往復で36km)林道を歩くという選択をした。18km林道を歩いてから、3120mの山に登山して、そこから下山してから、更に林道を18km歩くというのは想像した以上に辛かった。我が人生最大級の疲労度でした。

早朝に山頂で富士山を撮影した後に下山したのだが、登山時にすでに疲労していた上、宿泊用具と撮影機材を詰め込んだ110リットルのバックパックは重く、山頂は凍って滑りやすかったので、椹島の登山道入り口まで下山した時には既に午後3時を過ぎていた。そこから、林道の入口のゲートまで18km歩いたが、これが長かった。辛かった。途中で泣きそうになった。涼しい顔をして車で通って行く特権階級の連中が憎らしかった。革命を起こしたくなった(笑) 疲労困憊でふらふらしながらも、何とか夜の10時過ぎに車に着いた。朝8時前から歩き出して、夜10時過ぎまで歩き通しである。そのまま、そこで寝てしまおうと思ったが、遭難したと思われたら大事になってしまうので、せめて電波の届くところまで行って同居人に無事を伝えようと思った。そこで、生まれてはじめてニホンカモシカに出会った。夜だったし、カメラはトランクの中のバックパックに入っていたので、撮影は諦めたが、車にも人間にも驚かずに、きょとんとした顔をしてずっとこっちを見ていた。しばらく見つめ合った後、僕はカモシカ君に別れを告げて、3Gが届くところまで行って、LINEで無事を伝えて、石のようになって寝た。フラットシートにする気力も無かったので、運転席をリクライニングして、そのまま夜明けまで熟睡した。人間、極端に疲労しているとどんな場所でも熟睡できるものだ。

翌日は夜明け頃に起きた。まだまだ、いくらでも寝れそうだったが、来る途中に富士見峠というところがあったので、そこから富士山が撮れるのではないかと、期待して起きてみた。さっそく、車を走らせてみたが、どうやら来た時と違う道を通っていたようで、お目当ての富士見峠には一向に辿り着かない。すっかり明るくなってしまって、少し残念な気持ちになったが、昨日は赤石岳の山頂から素晴らしい景色が撮れたのだから、まぁ、良いか、と気を取り直して運転していたら、生まれて二回目のニホンカモシカに出会った。それが、写真の彼である。

全く人間を恐れていないようで、かなり近寄っても逃げる気配がない。さんざん撮った後でちょっと心配になってきた。「そんなところにいたら、車に轢かれちゃうかもしれないから、山に帰りな」と身振り手振りを交えて語りかけてみたが、全く通じないようだ。そりゃそうか。人間は恐ろしいものだ、と教えこむために威嚇しようかと思ったが、つぶらな瞳を見るととてもそんなことはできない。しかし、今まで一度もカモシカも見たことが無いのに、急に連続して見るなんて、尋常ではない。ひょっとしたら、コイツは山の神からのメッセージを届けにきた使いではないか、と彼の瞳を覗きこんでみた。しかし、ただヌボーっとしているだけで、メッセージ性は微塵も感じなかった。当たり前か。

仕方が無いので、彼の無事を祈りつつ、車を走らせた。カモシカ君がゆ〜っくりと動くのがバックミラー越しに見えた。あんなにゆっくりで、よく絶滅しなかったものだ!

Yuga Kurita Mount Akaishidake South Alps Japan Night_9E40335
Nikon D800E w/ SIGMA ART 24-105mm f/4 DG OS HSM

今回の赤石岳は本当に苦労したが、お釣りが来るぐらい素晴らしい体験だった。一生忘れないだろう。富士山を撮影しようと山に登っているうちに、最近はすべての山が好きになってしまった。赤石岳山頂の景色は360度すべて素晴らしく、富士山以外の被写体もついつい撮りたくなる。上の写真は南アルプスの北側を写したものだ。直ぐ目の前にあるのが、小赤石岳で、その後方には荒川三山が控え、更に後ろには農鳥岳と間ノ岳が見える。

Yuga Kurita Mount Akaishidake Iida City Full Moon_9E40351
Nikon D800E w/ SIGMA ART 24-105mm f/4 DG OS HSM

月はほぼ満月だったので、ヘッドライトなしでも動けるほど明るかった。富士山とは逆側の長野側の景色も素晴らしかった。

Yuga Kurita Mount Fuji Akaishidake South Alps Japan Moonlight Shadow_9E40345
Nikon D800E w/ SIGMA ART 24-105mm f/4 DG OS HSM

満月が赤石岳の巨大な影を作った。そしてその後方に鎮座する富嶽を照らす。全くもって素晴らしい光景だった。写真を拡大してよく見ると、赤石岳の頂上に立って写真を撮影している男の影が見えるかもしれない。それ、僕ですわ( ̄▽ ̄)

Yuga Kurita Mount Fuji Akaishidake a Dynamic Sea of Clouds_9E40412

Nikon D800E w/ SIGMA ART 24-105mm f/4 DG OS HSM

目の前にある標高2,539mの生木割を飲み込むほどの大雲海が、刻一刻とダイナミックに変化する。一瞬たりとも目が離せなかった。

Yuga Kurita Mount Fuji Sunrise Akaishidake_9E40503
Nikon D800E w/ SIGMA ART 24-105mm f/4 DG OS HSM

ついに太陽が昇る。ブラケットで連写してから、あまてらす様とさくや姫に二拍でご挨拶。そして、後ろ側はどうなっているのかと振り返る。

Yuga Kurita the Shadow of Mount Akaishidake Sunrise_9E40541
Nikon D800E w/ SIGMA ART 24-105mm f/4 DG OS HSM

なんと、今度は太陽が赤石岳の巨大な影を作っていた! 満月が作る影と太陽が作る影を同じ朝に見れるなんて、なんて贅沢なんでしょうか。ありがとうございます。

IMG_0742

Canon PowerShot S200

そういえば、椹島までの東俣林道はちょうど紅葉が見頃だった。たまには、紅葉を愛でるために、余計に30-40kmほど歩くのも悪くないのかもしれない…

※WordPressをサブディレクトリ型で多言語化する作業に伴い、2019年12月26日に日本語部分だけを切り離して投稿。